「……」
…なんなんだろうなぁ、こいつは。
今日何度目かの疑問を心の中で呟きつつ、ユーリは小さくため息を吐いた。
今彼の目の前に居るのは堅物な親友でも天然な皇女殿下でも、ましてや《凛々の明星》の面々でもない。
「…飽きない?」
「飽きる!? 失礼ね、遊びに来てるわけじゃないんだけど私!」
眦を吊り上げる目の前の少女――いや、少女と呼ぶのは年齢的に失礼というものだろう。
騎士の簡易鎧を纏うその女性、見たままに騎士団所属の騎士なのだが…
「…とりあえず、あんたみたいなのが下町に居ると目立つんだけど?」
「あなたが目立つのは今更でしょ」
「いや、オレじゃなくて」
至極真面目な顔で言い返してきた女騎士に、ユーリは再びため息を吐く。
言外に「帰れ」と言っているのが通じないらしい。どこまでポジティブなのか彼女は。
「…良いから帰れよ…あんた、エステルの護衛騎士なんだろ?
姫様放っておいて下町で遊んでて良いの?」
「だから遊びに来ているんじゃないって言ってるでしょうが!
エステリーゼ様の許可だってとってあるわよッ」
「…なぁんで許可出しちゃうかなあの姫様は…」
思わず頭を抱えるユーリに対し、彼女は心外そうに顔をしかめた。
いや、顔をしかめたいのはこっちなんだけど…とユーリも思わなくはないが、ここはぐっと我慢する。
「だいたい、エステリーゼ様の護衛騎士隊は私しかいないわけじゃないんだけど」
「それはそうだろうが、あんたはエステルのお気に入りだろ」
「そう思われてるのは光栄だけどね、エステリーゼ様は特定の騎士を贔屓したりしないわよ」
光栄だと感極まっても良いような評価を受けてなお、彼女は決して傲らない。
逆に主君を擁護するくらいだ。
「…なるほど。姫様が気に入るわけだ」
姫様ことエステル――エステリーゼは、皇位をヨーデルに譲ったものの、皇位継承権自体を失ったわけではない。
なので、以前よりは自由に動き回れる身とは言え、護衛が居るのは当然とも言える。
先の戦いで再編成が行われた騎士団から、エステルにあてがわれた新しい護衛騎士のひとりが、この女騎士。
=。
下町育ちのユーリですら知っている、帝都名門貴族家の令嬢だ。
「だがエステルもあんたが下町に入り浸ってちゃ、寂しいだろうなぁ」
「う…」
「お嬢様騎士は姫様と優雅にお茶会でもしてりゃ良いのに。
ほら見ろ、今日は絶好のピクニック日和だぞ」
「う、る、さ、いッ!」
ユーリの態度が気に入らないのだろう、はキッとユーリを睨めつけた。
今にも斬りかかって来そうな形相だが、丁度そこへ幼い声が掛かる。
「あ、騎士のお姉ちゃんだ」
「今日はエステルお姉ちゃんはいないの?」
「残念ながら今日は私ひとりよ! 後で遊んであげるからちょっと待っててね」
「「はーい」」
元気に返事を返す下町の子供達。
この様子を見るだけでも、エステルがを気に入っている理由がわかる。
すっかり子供達に懐かれている彼女を眺めながら、思わずユーリは笑った。
「…って何笑ってんのよ!?」
「いや? 遊んであげるときましたか、とね」
「つ、ついでよついで! 子供は国家の宝よ、大事にしなきゃダメなのよ!」
「はいはい」
大貴族のお嬢様の割には、なかなか面白い女ではある。
数ある護衛騎士の中で、エステルが気に入ってユーリに紹介してきただけあって、
身分など気にしない性格は下町にも受け入れられた。
「ユーリと似た者同士だと思いますよ」とはエステルの言だが、
いやいやどっちかって言うとフレンと似た者だろとユーリは思う。こうやってからかうと、非常に面白い。
なのでユーリとしても歓迎してやりたいのは山々なのだが…
「さあ無駄話は良いから剣を抜きなさい!」
「…これだよ」
いったいどこから聞きつけて来たのか…恐らく情報源はエステルだろうが、
ユーリの剣の腕がフレン以上だと知って以来、彼女は下町に通い詰めているのである。
自身の腕試しをしたいという気持ちはユーリにもわからなくはないが、勝っても負けても面倒そうな相手だ。
…やれ、どうして自分の周りに居る女は揃いも揃って気が強いのかね。
そんなことを思いながら苦笑する程度には、余裕はあったが。
「手合わせならフレンに頼みなさいよ」
「団長は忙しいのよ」
「オレは暇人扱いか」
怒れば良いのか笑えば良いのかわからない物言いに、ユーリは微妙な表情を浮かべる。
「…暇でしょう?
ユーリ曰く『ピクニック日和』に、こんな場所で昼寝する程度には」
更に追い打ちがきた。しかも胡乱げな表情で。
いや、確かに暇と言えば暇なのだが、暇な時間をどう使うかはユーリの自由である。
「…昼寝すんのに忙しいんだよ」
「年寄りみたいなこと言わないでよ」
「バカ言うなよ、年寄りはもっと元気だぞ。ハンクスじいさんとか見ろよ」
「なお悪いじゃない!」
確かに、胸を張って言うことではない。
速攻で反応を返したに、ユーリは声を殺して笑った。
「なんで私が笑われるわけ!?」
「いやいや…あんたのそういうとこ好きだぜ?」
「なっ!」
絶句するに、ユーリは今度こそ耐えきれずに声を上げて笑った。
どうせだったら鎧やら剣やらなんて無粋なものは取っ払って…いや。
共に旅にでも出てみれば、きっと面白いだろうなと。
そんな風に思えるくらいには、ユーリもまたを気に入っているのだ。
きっとこの想いに何かしらの名前を付けるとするならば、
――――人はコレを、〝恋〟とでも、呼ぶのだろうか。
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