注意※ これは連載『BOYS & GIRLS』設定の学パロです。



「……」

ぼんやりと、窓の外を眺める。
部活のない生徒は既に下校し、校舎に残っているのは、部活か委員会の仕事がある生徒だけ。
ああ、今日も何でもない日常が終わるな――と、なんとなく考えていた。

「どうしたの、アレンくん?」
「…え?」

一拍遅れで、僕は声を掛けられたことに気付いて顔を上げた。
そこには、穏やかな微笑を湛えた女子生徒が、僕の顔を覗き込んでいる。

「リナリー?」
「眉間に皺寄ってるよ?」

そう言って、リナリーはその細い指先で軽く、僕の眉間をつつく。
つつかれた箇所を押さえつつ、僕は苦笑した。

「そうですか?」
「うん。どうしたの?」
「…いえ、なんでもない、です」
「そう?」
「…あ。リナリー、今日って何曜日でしたっけ?」
「え?木曜日だけど…」

…木曜。7日目。
じゃあ、明日には――いつもに賑やかな日常に戻るのか。

「そう言えば、修学旅行に行ってた3年生が今日、帰ってくるよね」
「っ!!」

何気なさを装い言われた言葉に、反射的に反応してしまった。
瞬間、リナリーがわざとらしいほど微笑ましいものでも見るかのように笑う。

がいなくて寂しかったんだ?」
「ち、違いますよ何言ってるんですかリナリー!」
「あ、動揺した」
「してませんっ」

即答で返して、僕は席を立った。
…どうにも、リナリーには勝てない。

「…ちょ、ちょっと生徒会室行って来ますね…」
「ひとりで行ける?」
「さすがの僕でも、半年も通ってれば覚えますよ!」
「はいはい、からかってごめんなさい。いってらっしゃい、会長」
「…いってきます」

何もかも見透かしているかのようなリナリーの微笑に、僕はこっそり溜め息を吐いた。











ふらふらと教室を出ていくアレンを見送り、リナリーは小さく息を吐いた。
はたから見てるだけでも、充分様子がおかしいというのに。どうやら本人には自覚がないらしい。

「もう。アレンくんも素直じゃないなぁ」
が鈍いせいもあるんだろーけどなぁ」

そうよねぇ、と頷きかけて、ふとリナリーは我に返る。
振り返ると、すぐ後ろに見慣れた幼馴染みが立っていた。

「…ラビ? なんで居るの?」
「んー? お土産持って来たんさー。ってことでただいま、リナリー」
「おかえりなさい」

笑顔で応えると、リナリーは差し出されたお土産を受け取った。
恐らくはたった今帰ってきたのだろう。
だが、ラビの家とリナリーの家はすぐ近所だ、わざわざ学校に来る必要はない。

「学校に来る必要なかったんじゃないの?」
「いや、アレンだけ家の方向が逆だからさ、じゃあついでだしリナリーの分も持ってくか、と」
「ああ、なるほどね」

つまり、家が逆方向にあるアレンへの土産を届けるついでに、持ってきたのだろう。

「神田は帰ったの?」
「うん、「めんどくせぇ」って。ハイ、これユウからリナリーにお土産」
「あら…後でお礼に行かないとね。でも疲れてるなら明日の方がいいかな?」
「大丈夫じゃねー? いつものようにに振り回されて疲れてるだけだし?」
「相変わらずねぇ」

きっと好奇心旺盛な彼女のことだ、あちこち駆け回っていたのだろうと想像が付く。
で、それを引っ張って軌道修正するのが神田の役目だった。ある意味昔から。律儀である。

「で、は?」
「あれ? 会ってない?」
「うん」
「…おかしいな、先に行くってお土産振り回しながら走ってったけど」
「…振り回したの? ったら…。でもどこに行ったのかしら…」

大抵、お土産というものは菓子類だろう。
そんなに振り回して、後で後悔しないと良いが。
そんなことを考えつつ、リナリーはが用事がありそうな場所を思い浮かべてみる。
瞬間、閃いたのは、ある意味「そこ以外あり得ないだろう」と確信が持てる場所だった。

「「…あ」」

リナリーとラビは、同時に声を上げて顔を見合わせた。
そして、思わず同時に吹き出す。
…どうやら、思いついたことは同じだったらしい。


+++



「…一週間、か」

そんなに長い間じゃなかったはずだ。
それこそ毎日、飽きるほど顔をつき合わせていたんだから、一週間くらい大丈夫だと思ってた。
だけど日を追うごとに、違和感を感じ始めて。

…別に、一生会えなくなるわけでもないのに。
自分で思っていた以上に、僕は女々しいらしい。…最悪だ。

「…あれ? 開いてる…?」

鍵を差し込んだ瞬間、違和感を感じて鍵を抜いた。
生徒会室の鍵を持っているのは生徒会長である僕と、顧問の教師だけ。
この時間、教師が生徒会室に来る可能性は著しく低い。

首を傾げつつ、思いっきり戸を開ける。
果たして――中には人が居た。

「遅い」
「…は?」

遅い、と。
生徒会室でも一番大きな机の上で、ひとりの女子生徒がふんぞり返っていた。
肩口を滑る黒髪と、華奢な体躯。見覚えの有り過ぎる、少女。

「…!?」
「はーい、ただいまー」
「何やってるんですか!?」
「いや、せめて「おかえり」の一言くらい…」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!!」

…ああ、なんか、もう。
呆れ過ぎて、何をどう言えばいいのかわからない。
ドアに頭を預け、深々と溜め息を吐いた。

「…どうやって入ったんですか。
 鍵は僕が持ってるものと、顧問の先生が持ってるものしかないんですけど」
「これこれ」
「ヘアピン!? 無駄に器用なことしないでくださいよ、泥棒ですかあんたは!!」
「泥棒とは失敬な!」

どこの世界に、ヘアピンで鍵をこじ開ける女子高生がいるんだ、まったく。

「お土産持って来たのにその扱いはないんじゃない?」
「は? お土産?」
「うん、修学旅行のお土産。食べ物だからその日に渡しちゃおうと思ってさ。
 リナリーは家が近いから直で持って行けば良いけど、アレンは家が逆方向だし」
「…それでなんで生徒会室に不法侵入?」
「だってここの方が確実じゃない。教室に行っても居なかったら意味無いし」
「ヘアピンで鍵をこじ開ける意味がわかりません」
「だって開いてなかったんだもん」
「開いてなかったらこじ開けるんですか君は」

開いてなかったら諦めるとか、本人を捜すとか、別の場所で待つとか、あるだろ。色々。
それがどうしてヘアピンでこじ開けようという結論に至ったのか、そっちの方が聞きたい。

「そんな細かいこと良いじゃないの! ってわけで、はい。お土産」
「………」
「え、なに? 毒なんて入ってないよ」
「そんな心配してませんよ。…ったく、人の気も知らないで…!」

思わず、ため息を吐く。
何度目のため息か数えるのも気が滅入りそうだ。
この人、本当に喧嘩売ってるんじゃないだろうか…。

「…おかえり、
「え? あ、うん、ただいま?」
「一応言いますけど、机に座らないでください」

内鍵を閉めて、の座る机に近づく。
持っていた資料は棚の上に追いやってを振り返ると、未だ机に座る彼女が首を傾げていた。

「…………あのぅ。なんで鍵閉めんの?」
「さあ? どうしてでしょう」

腕を伸ばして、頬に触れる。
ゆっくりと顔を近づけて、唇を重ねた。
の体には微かに緊張がはしるけれど、抵抗はない。
が、口付けたまま剥き出しの腿に触れると、はハッと目を見開いた。

「…っ、ちょ、ストップ! ここ学校…ッ」
「大丈夫ですよ、生徒会室なんて誰も来ないから」
「何が大丈夫なんだ、バカ!
 あっちにクラブ棟があるんだから、窓から見えるってのッ」
「ああ、そうですね。じゃあ――

スッと、腕を伸ばしてカーテンを引く。
光が遮られ、もともと電気を点けていなかった部屋は柔らかな闇に包まれた。

――これで、問題無いでしょう?」
「~~~ッ!!」

言葉を失った彼女ににっこりと微笑んで見せて、啄ばむ様に口付ける。
華奢な身体を抱き寄せ、ゆっくりと机の上に横たえた。

「…あんた、わたしを困らせて楽しい?」

見上げてくる非難がましい視線に、僕は笑顔でそれを肯定した。

「ええ、とっても」
「………最悪だッ!!」

がなる彼女の声を口付けで封じて、緩めに締められたネクタイを片手で解く。
口付けたまま衣服をはだけていくと、さすがにの身体に緊張がはしり、身じろぎした。

「…おあいこですよ、そんなの」
「は!? わたしが何したってのよ、お土産届けに来ただけじゃん!」
は馬鹿だから気づかないだろうけど」
「ちょっとそれ酷くない!?」
「酷くない」

だって、は絶対気付かない。
たった一週間。されど一週間。
当たり前の日常の中に、彼女が居ない空白の7日間。




こんなにも自分を抑えられない程に会いたかったなんて、きっと彼女は気付かない。









くちびる白昼夢----会いたい衝動。

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