とある平和な昼下がり。
任務も騒動もないわたし達は、談話室でくつろいでいた。
ちなみに、ソファでごろごろしているわたしを「はしたない」とか父親みたいに叱る前髪パッツン男児…
…もとい、神田はひとりだけ任務で不在です。だからこそ、ごろごろしてるんだが。
「…教団にもこういう雑誌があるんだねぇ…」
適当に引っ掴んだ雑誌をめくりながら、わたしは誰にともなく呟いた。
「? 何読んでるの??」
「んー? 女性誌」
わたしの呟きを拾い上げてくれたのはやっぱりリナリーで、わたしの手元をのぞき込んできた彼女にわたしは雑誌を提示する。
瞬間、リナリーの笑顔が固まったような気がした。
「…………」
「教団って女性少ないのに、こういう嗜好品は充実してるよねぇ…」
「…あの、…」
「なぁに?」
「こ、これって…」
恐る恐る、といった様子で、リナリーはわたしを見る。
どうしてそんな反応なのかわからず、逆にわたしは首を傾げた。
「リナリーに変なものを見せないで下さい、。コムイさんに怒られますよ」
「痛ッ?!」
しきりに首を傾げてたわたしは、いきなり背後から後頭部を張り飛ばされ、予想外の痛みに蹲った。
「…何も殴らなくても良いと思う」
雑誌を置いて、わたしは張り飛ばされた後頭部をさすった。
目の前に居る、わたしの頭を張り飛ばした張本人を睨みながら。
「平手なだけマシだと思って下さい」
「暴力はんたーい」
「やかましいです。まったく…どこから持って来たんですかこの雑誌」
そんな、心底呆れたように言われることか?
もう一度雑誌を手に取って、ぱらぱらとめくっていく。
…20代から30代女性向けの雑誌なんだから、多分に現実的な恋愛観が書かれていれのは当たり前だと思う。
「なんも変なところなんかないじゃない。ねぇ?」
「いやー、男のオレらにはこの手の雑誌、オソロシイけどなー」
「そう?」
「だって、別に不満なんてないわーって顔しててさ、
えっちの最中にコイツ下手だなーとかウザーイとか思われてるとか凹むじゃん」
「あーラビはたまにウザいよねー」
「ちょっ、酷っ…何がウザいんさ!?」
「……そこの不健全な会話を今すぐ止めなさい。リナリーが困ってますよ」
嫌そうに顔をしかめながら言われて、わたしは返事の代わりに鼻で笑った。
リナリーならともかく、アレンに言われる筋合いはない。
「別にエロ本読んでたわけじゃなし、良いじゃないの。自分を棚に上げてよく言うわー」
「…ラビ、を黙らせて下さい」
「オレかよ」
なんで嫌そうなんだ。
だいいち、アレンに黙らせられないわたしを、ラビが黙らせられるわけがない。
「だって、はリナリーの言うことしか聞かないじゃないですか」
「…もしもしアレンさん? ならなんでオレに言うの?」
「ラビはに虐げられるの、好きでしょう?」
さらりと吐かれたのは、とんでもない爆弾発言だった。
「ちょっと待ってそれは違う! 激しく誤解!! オレらは別にSMカップルじゃねぇさッ」
「そこまで高尚なものだとは思ってませんよ。強いて言うなら毒舌娘とヘタレ兎ですかね」
「毒舌娘ってなんだー! アレンに言われたくないー!」
「…へたれ…兎…」
毒舌全開のアレンに、割と精神的に弱いラビは仄かに傷ついたらしい。
…へたれ兎はわたしも思ってたけど、うん、言わないでおこう。
「うわーん、アレンが酷いさーっ」
「あー、よしよし。泣くなラビー負けちゃダメー」
「……ねぇ、それ、逆じゃないのふたりとも……?」
わたしに泣きつくラビの頭を撫でてやっていると、微妙な表情で苦笑混じりに、リナリーが首を傾げる。
…まあ、わたし達に常識は当てはまらないし、そんなの今更なわけだが。
「っていうか、アレンと一緒にすんなよ。誰もSM嗜好なんか持ってないよ」
「激しく誤解を生むような発言をしないでくれますか、?」
「痛い痛いッ、顔引っ張らないで伸びるッ」
悲鳴に近い声を上げると、一拍置いてからアレンはわたしの頬から手を離した。
…というかなんで一拍置いたんだ、今。酷い。
「うぅ…こういうところがSなんだよぅ…」
「まだ言いますか?」
「ひにゃあっ」
「あー、アレーン? の可愛い顔が歪むからやめてやってー…」
また頬を抓られるわたしと、心なしか楽しそうにわたしの頬を抓るアレンの間に、何故か恐る恐るラビが手を出す。
…何故及び腰なのかは、敢えて言うまい。
「とアレンくんは、相変わらず仲良しね」
「「「…………………」」」
のんびりと、微笑ましいものでも見るかのように言われたリナリーの言葉に、奇妙な沈黙が流れる。
ひとり、ラビだけは機械人形みたいにギギギ…と鈍い動きで、リナリーを振り返った。
「…リ、リナリー…? オレを前にしてそれを言う…?」
「え、何が? 私は思ったままを言っただけなんだけど…」
困ったことに、リナリーはどこまでも本気だった。
微妙な半笑いになるわたしに、ほとんどタックルの勢いでラビが抱きついてくる。
…地味に痛い。
「の恋人はオレ! オレなんだってば!!」
「あー、はいはい。落ち着こうねラビー。痛いから離して」
「は冷たいさッ!! だからオレの扱いが日々酷い方向に行ってんじゃねぇ!?」
「わたしのせいかよ」
ラビがいじられキャラなのは、別にわたしのせいじゃないと思う。
「でも実際、はラビのどこが良くてつき合ってるんですか?」
「おまっ、そういうこと言うかッ?!」
「とりあえず最高のパシリだよ」
「、それ笑えねぇさ!!」
ほとんど悲鳴に近かった。
あまりにもラビが本気で騒ぐものだから、思わず楽しくなって、わたしはにっこりと微笑む。
「冗談だって。面白いなぁ、ラビは」
「苛め甲斐はありそうですけどね、確かに」
「ふたりとも、いくらラビでも可哀想よ」
「誰一人フォローしてくんないってどういうワケなんさッ」
子供みたいにいじけるラビに、わたしは苦笑する。
こいつホントに馬鹿だなぁ、と思う。可愛いけど。
「…じゃあ逆に訊くけど、あんたはわたしのどこが良くて付き合ってんの?」
「へ? そりゃあ…」
すー…っと視線が下がってきたので、わたしはべちっとラビの額を平手て叩いた。
「………………………………今どこを見た」
「ごめっ、冗談! いや、半分くらい本気だけど冗談ッ!」
「冗談だァ…?」
「いやーーっ!? がだんだんユウそっくりになっていくーーーーっ!?」
目を据わらせて、指に力を込めるとそんなことを言われる。
失礼な。あそこまで凶暴じゃないし口も悪くない。
「…でも実際、って元からあんなに口悪いんですか?」
「うーーん…そうでもなかったと思うけど…」
「やっぱり神田の影響なんですねアレ。可哀想に」
「それは誰に対しての可哀想?」
「主にの頭ですかね」
「オイコラ、そこのモヤシっ子。なんでわたしの頭が可哀想なんだ!!」
どさくさに紛れて酷いこと言ってるよこの子!
だというのに、アレンはさも心外だと言わんばかりに目を眇めた。
「誰がモヤシですか。
人のこととやかく言えないでしょ、頭に行くはずの養分が全部胸に行ってる脳足りんのくせに」
「ちょっ、なんて暴言吐きやがりますかセクハラだよそれ!?」
「だから君に言われたくないってば」
少なくともアレンにセクハラした覚えはない!
「もう少しその口の悪さをなんとかしないと、可愛げ無く見えますよ?」
「よけーな世話です! 別にアレンに可愛いとか思われなくても良い!!」
「どんなでもオレの愛は変わらねぇさ!」
「ラビちょっと黙っててウザい」
「酷っ、なんで!?」
八つ当たりです。
だってアレンに口喧嘩で負けるなんてプライドが許さない!
「…ねぇ?」
「「「ん?」」」
小首を傾げながら、リナリーが口を開いた。
わたし達三人は、即座に彼女の方へ振り返る。
「…なんだか、とアレンくんの方が仲良しに見えるんだけど…気のせい?」
「「「…………………」」」
再び、奇妙な沈黙が流れた。
そろそろ本気で泣きそうな顔で、ラビがぐったりとへたり込む。
「…ちょ、…やめてリナリー…マジで凹むソレ…」
「そうだよリナリー! 大丈夫、わたしの溢れんばかりの愛はリナリーだけのものだから!」
「あら…」
「「え、そっち!?」」
リナリーにひしっと抱きつくわたしに、ラビとアレンはばっと顔を上げて声を揃えた。
「安心して、アレンには欠片もないからね!」
「僕はありますよ? 欠片くらいなら」
「は?」
予想外の返事に、わたしはきょとんと目を瞬かせた。
対するアレンは笑顔だ。…なんだろう、逆に怖いんですが。
「ダメだ! アレンの言うこと聴いちゃダメさ!
あいつオレからお前を奪い取る気満々なんさ絶対そうだーっ!」
「痛い痛い! ちょ、落ち着けラビ! 痛いから!」
抱き潰されそうな勢いで抱きつかれて、わたしはじたばたもがく。
だいたい、そんな必死にならなくてもアレンが本気でそんなこと思うわけないだろ!
「ラビの手垢が付いたモノなんて要りませんよ」
「モノ扱い!?」
ほらみろ! 物凄い見下し目線じゃん!
しかもひとをモノ扱いしやがった!
「仲良しね、三人とも。でもの一番の仲良しは私だから」
ひとり騒動の外で、にこにこしながらわたし達を眺めていたリナリーが、笑顔のままでさらりと言い放った。
硬直する男共を放っておいて、わたしはリナリーを抱きしめる。
「そーだよねー! リナリーが一番だよねー?」
「ねー?」
言い合いつつ、まだ硬直したままのふたりをちらりと横目で見て、わたし達は思わず吹き出した。
「騒いでたら喉乾いたー。お茶にしよ、リナリー」
「そうね。今日はジェリーが新作のお菓子を作るって言ってたし」
「ちょ、なんでそれを早く言わない! 行くよリナリー!」
「きゃっ…、お菓子は逃げたりしないわよ」
リナリーの手を引っ張って、わたしは食堂へ向かって歩き出す。
背後の会話に笑いつつ。
「…ねぇ、ラビ。君、遊ばれてるんじゃないですか?」
「…いや、うん…お前もな、アレン…」
人聞きの悪いことこの上ない。
楽しんではいるけれど、遊んでるわけじゃないんだけどなぁ。
「ラビ! アレン!
早く来ないと置いてくよー!?」
「あ、はい」
「置いてく気満々だったろ、…」
苦笑しながらふたりがついて来るのを確認してから、わたしは隣を歩くリナリーと顔を見合わせ、互いに笑う。
「あんまりラビを苛めちゃ可哀想よ?」
「リナリーだって苛めてたじゃない」
「あら、だってそこはが庇ってあげないと。ねぇ?」
「良いんだよー。男は馬鹿なの、そこが可愛いの」
「もう…ったら」
「なになに、なんの話さー?」
いつの間に追いついて来たのか、ラビがわたしの横に並ぶ。
「ラビが馬鹿だ、って話だよ」
にっこり微笑って答えると、「酷っ、なんで!?」とか慌てるから、余計に笑ってしまう。
ああ、もう!
ホントにコイツと一緒にいると飽きないなぁ!
「ふふっ…」
「なに?」
「ううん、が楽しそうだなぁって」
「そりゃあもう!」
満面の笑みで返して、わたしは少し後ろを歩くラビを横目に見る。
そして笑いながら告げた一言こそ、わたしの掛け値無しの本音だ。
「わたしのカレシは世界で一番馬鹿で、一番愛しいからね!」
きみは可愛いわたしのカレシ。
END
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